兎死すれば狐これを悲しむ。 兎死すれば狐これを悲しむ 森田順子

雨降る空でもボルダリングを: SRT in 日之影・比叡〔17.03.18

兎死すれば狐これを悲しむ

兎死すれば狐これを悲しむ [newpage] 短刀たちを寝かし付けた後で、小狐丸は主の部屋に薄らと灯りが点いていることに気付く。 虫の鳴き声ばかりが聞こえる庭をぐるりと見渡して、意識を研ぎ澄ませる。 不穏な気配はない。 外に面した廊下を忍び足で渡り、揺れる灯りを目指す。 浅い寝息を背後に、五感を研ぎ澄ませながら、一寸、視線は見事な桜をとらえた。 散る花びらが、磨きぬかれた床のあちこちに舞い降りる。 足袋越しにはわからぬほどの薄く儚いそれらに、心中で踏む非礼を詫びた。 無用心に開け放たれた障子戸の、中から見えぬ位置で片膝をついた。 蝋燭の火が揺れているのか、床板に映る部屋の主の影が前後する。 もしかしたら寝ているのかと声を掛けあぐね、主、と喉元まで出掛かった瞬間、 「いってぇ!」 と、上擦った悲鳴があがった。 反射的に身を乗り出して素早く戸を開けた。 「ぬしさま」 お互いが固まる。 彼は三白眼を見開いて驚いている様子だった。 無骨な手が握っているのは、全く以って似合わない裁縫道具だ。 薄明かりに照らされた室内には、昼に出陣し負傷した刀剣たちの衣服が散らかっている。 踏み込んだ足をひいて、丁寧に頭を下げた。 「失礼、ぬしさまになにかあってからでは遅いと」 「ハハ、生憎何もないぞ」 「それは良かった。 それで、ぬしさまはなにを?」 遠慮がちに周りのものに目を遣ると、彼は歯切れ悪く「手入れをだな」とだけ呟いた。 彼は針山が隅っこに転がっているのを見て、ぽりぽりと頬を掻いてから自分が座している座布団の角に針を刺す。 彼が審神者という職に就いたのは、小狐丸が喚ばれる随分と前だという。 歳若い刀剣たちに慕われる主を見て、良い主の元に来たと早い段階から此処にいたという長谷部に言ったことがあった。 長谷部は一寸驚いた顔をしてから、そうだな、と頷いた。 聞くところによれば、最初は至極冷たい人物だったらしい。 それが使命感からきたものなのか、小狐丸の与り知らぬ、軍人だという彼の過去がそうさせているのかはわからない。 しかし、 「夜更かしが過ぎると、せっかくの毛並みも痛んでしまうぞ」 苦笑いばかりする、薄く皺の刻まれた眦は優しさが滲んでいる。 「ぬしさまこそ、慣れない裁縫など皆が心配しますよ」 「己れが呼び立てて、闘ってもらっている」 四つん這いになり部屋の中へ入る。 袴を引き摺りながら主ににじり寄って、あぐらをかいた膝に無遠慮に頭を乗せて転がる。 畳に柔らかい布地がはらりと広がり、衣擦れの音が止むと外からまた虫の声が響いた。 [newpage] がしがしと頭を撫でられながら耳を垂れ、鼻を鳴らす。 「銃やナイフを扱ったことはあれど、お前たちのような繊細なものは初めてでな」 「ふむ」 「長谷部は己れの身の回りのことをあれこれ見てくれる。 来たばかりだというのに、お前は短刀たちの面倒をよく見てくれる」 なかなか元気で手を焼いていた、そう加えて笑うと、主は小狐丸にお構いなしに繕いかけていた着物を手繰り寄せた。 顔にかかった布を迷惑そうに退けて仰いだ彼の表情は、とても険しいものだった。 震える指は糸を挟み込み、小さな針穴を目指して健闘している。 「ぬしさま、御歳はいくつでしたか」 「んん?今年で三十、六か」 糸が通る。 一瞬の油断した顔と、緩んだ指先から重みで通ったばかりの針がするりと抜けた。 悔しそうに歯軋りする主の顔が面白くて、小狐丸はついつい失笑した。 上体を起こして、彼の手から糸と針を掠め取る。 「どこを縫えば」 遠慮がちに示されたところを、すいすいと縫ってみせる。 少し手本を見せるつもりが、感嘆の息を洩らす主に、つい調子に乗って一揃い直してしまった。 「私がぬしさまに従うのは、ひとえに惹かれたからですよ」 「己れはそう、大した人間じゃないよ」 「世の中には『惚れた方が負け』という言葉がありますゆえ」 くつくつと喉の奥で笑う。 凛々しい眉を八の字に下げて、主はしっかりと治された衣服を目線の高さでしげしげと眺めた。 そして自分が途中まで縫い進めていた箇所を顧みて肩を落とす。 ほつれた糸が四方に顔を覗かせている。 小狐丸はそれもすくい取ってすいすいとハサミで飛び出した糸屑を切り落とした。 「己れはな、お前たちをな、ただの武器と変わらんと思っていた」 古傷の残る頬を掻きながら、申し訳なさそうに呟く。 「戦争を経験した。 部下は死んだら戻って来ない。 己れが最後に握っているのは、いつも、仲間の手ではなく、冷たい鉄の塊だ」 「ぬしさま」 話を遮らない程度に、そっと膝に両手を置いた。 やや困惑気味に茶色い瞳を覗くと、主の悲しみを映し出すように心憂い面持ちの自身がいる。 小狐丸は、彼の生きる時代をよく知らないが、戦がいつの世でも無常なものだというのはわかる。 帝の守り刀という立場上、揮われることは叶わなかったが、こうして今必要とされることを憎らしく思う。 「小狐、どうか、死んでくれるな」 「おかしなことを。 私は刀ゆえ、死ぬのではなく壊れるのですよ」 「そうか」 「ぬしさまこそ、ご自愛ください。 人の一生はほんの一瞬だ」 [newpage] 「お前たちに比べたら、確かに一瞬か」 腑に落ちない顔をする。 「小狐丸は歳にすると千と余年でございます。 ぬしさまの倍の倍、そのまた倍」 かんらかんらと笑うと、骨張った両掌がふいに顔を挟み込む。 驚いて、柄にもなく短い悲鳴をあげた。 間髪入れずにその両手は小狐丸自慢の毛並みをくまなく撫で擦る。 くすぐったさと心地良さに身動ぎながら、再び主の膝に身を預けた。 年甲斐もなくはしゃぎながら、しかし、夜の闇が落ちる本丸に気を遣い、二人で声を潜めて戯れた。 「小狐よ」 「あい、なんでしょう。 もっと撫でてくださって構わないですよ」 「流れ星を知っているか」 脈絡のない質問に首を捻ってから、開いたままの障子戸から中庭に視線を向けた。 ゆっくりと空を仰ぐと、青白い三日月の周りに幾千もの星が瞬いている。 長い指をまるめて月の形を真似る。 「知っております。 あれは、とても綺麗だ」 「あれは、星が消える前の輝きなんだ」 夜の匂いがした。 しんと冷えた空気に鼻をひくつかせ、唇を結ぶ。 「一瞬だからこそ、美しいものもあると」 「まあ、己れの人生がそう風流なものだとは思えないが」 「ぬしさまは尊い」 主が反転した三日月を作り、小狐丸のそれと合わせた。 丸を形作った二人の指の中で、ちかちかと星が煌く。 気の遠くなるほどの月日があっても、空は相変わらず手付かずのままだと感じた。 時代を超えてきた主にもまだ、星は彼方、届かぬ世界なのだ。 指の力を抜いて、日焼けした手を握る。 「随分と冷えておられる」 「ああ、裁縫をするとどうも変に力が入ってしまう」 戦も内番も任せてばかりだからと口篭る。 それならば鍛錬に付き合うでも、刀剣を増やすでも他にいくらでも方法があっただろう。 彼なりに、誰も手をつけていない仕事を見つけたつもりかと思うと、たまらなく愛しくなる。 何度も失敗して針をさしたらしい指のはらの傷をぺろりと舐めた。 「こら」 「私たちを斯様に想ってくださるぬしさまに、惚れ直してしまいました」 審神者となった今も、彼は現役と変わらず鍛錬を怠っていない。 冷たい鉄の塊から縁遠くなったというのに、その手の表皮はまめや罅割れでざらついていた。 静止にも構わず、丹念に舌を這わせる。 剥け掛けた皮膚の端を食んでゆっくりと噛み千切ると、些細な痛みに主が息を呑むのがわかった。 [newpage] 「愛しいぬしさま」 薄皮を飲み下すと、主の一部を口にした奇妙な背徳で、にわかに鳥肌がたつ。 廊下には、相変わらずはらりはらりと薄紅の花弁が最期の時を知らせに来ている。 流れ瞬く星、散る桜、消え逝く刹那の美しさは、なにものにも変えがたい。 赤く剥けた部分を舌先でつついて、妖しく笑う。 死んでくれるな、そう言った彼の声が僅かに震えていたことに気付いた。 彼の憂いを消したい一方で、刀剣の損壊に心を痛める稟性をとても大切に思う。 刀は、時代と共に遠逝した遺物だ。 審神者の手によって人の姿をとり、こうして誰かに握られることもなく自ら戦場に起つ術を得た。 今更、己一振りどうなろうと、諦めにも似た観念を腹に抱えている。 しかし、赤銅の眼が映す未来が、幸せなものであれと切に願う。 目蓋をおろして、浅く息を吸い込む。 音もなく散る花弁、冷たい冬を越えた虫たちの歓声、しんと澄み渡る夜の赴き。 頬に引き寄せた粗雑な掌からゆっくりと伝導する心の臓が彼を生かしている。 この鼓動が止まるまでと烏滸がましい欲が視界を滲ませた。 「小狐」 「ぬしさま、そう入れ込むものではないですよ」 一度両手で顔を覆い、身を知る雨を止ませる。 「所詮狐は狐、千年の時を経て天狐となっても人を化かす」 せめて美しい泡沫となればいい。 浮かんでは消える、身に余る願いを押し込めるように言葉尻は弱弱しく消えた。 「それも遠慮か」 「さて」 とぼけてみせるが、主は静かに外に視線を向けた。 春に降る雪は、しんしんと新緑の上に積もっていく。 沈黙の後で柔らかく髪を撫ぜられる。 「愛いなァ」 見透かすように言われて、白い頬が紅色に染まった。

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読書のおと(白河三兎作品のページ No.2)

兎死すれば狐これを悲しむ

浅海の岩石などに付着。 体は柔らかく円筒形で、上端中央に口があり、その周囲に触手が並ぶ。 触手に刺胞があり、毒液を獲物に注入して捕らえる。 不消化物は口... う【兎】 ウサギの古名。 ノウサギ類と、飼いウサギの原種であるアナウサギ類とに分けられる。 体長40~60センチのものが多く、一般に耳が長く、前肢は短く、後肢は長い。 上唇は縦に裂け、上あごの門歯は... 兎 うさぎ 死すれば狐 きつね これを悲しむ 《田芸「玉零音」から》同類の不幸を縁者が悲しむことのたとえ。 兎 うさぎ の登り坂 《ウサギは後足が長く、坂を登ることが巧みであるところから》持ち前の力を振るうことができて、物事が早く進むたとえ。 兎 うさぎ の糞 ふん ウサギの糞のように、物事がとぎれて続かないことのたとえ。 うさぎわな。 鉄砲で撃ったり、張った網などの中に追い込んで生け捕りにすることもある。

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